東京藝術大学 大学院美術研究科 博士審査展2019

彫刻
木彫の内面精神
―京劇をモチーフにした木彫の可能性―
張 龍

審査委員:森 淳一論文①:布施 英利 准教授                              作品①:大竹 利絵子 准教授   ★深井 隆 名誉教授                               

本論文の研究テーマは、京劇文化を創作の原点とし、現代人の心理を古典主義木彫と現代木彫の表現様式を融合しながら芸術創作を行うことの可能性を探索することとする。
 京劇は、中国の伝統芸術文化として世界に知られている。北京をはじめ中国全土に広がり、中国伝統芸術文化を伝承するのに大切な表現手段の一つである。舞台における演劇を通し中国人の心理世界を表し、人々の生活状態における感情を反映する京劇は、社会の発展に伴って形が変化しつつある。
 彫刻の表現様式と京劇文化の発展方向は同じ基軸あると思う。
 彫刻を学び始めた頃から、彫刻は私の中で一番興味深い分野である。現在も、彫刻の創作を続けている私は、様々な彫刻家の作品を鑑賞したとき、常に心から作者との共感が生まれてくる。彫刻作品から受ける特徴は2つあり、一つは作品と鑑賞する人との間で生まれた精神面の距離感、もう一つは、この距離感を通じて、芸術家本人と鑑賞する人との間にコミュニケーションが生まれることにある。このコミュニケーションが生まれる過程とは、人間が自分自身の価値を認めることでもある。

本論文は以下3つの部分に分かれる。

第1章「京劇をテーマとした木彫表現」では、京劇芸術の発展と多様性により、私が京劇から感じることを述べる。私が木彫創作の習得経験により、京劇の要素を自身の木彫創作にどう取り込むかを説明する。自身の作品を例とし、京劇の役者を木彫にする表現様式の入門形成を述べ、生活において内面の精神力を追求する同時に、社会環境も前向きに発展させており、人の文明が進歩し続けることを探求する。
 第2章は「彫刻空間の多様性」をテーマに、5つの角度から彫刻の世界において、内側の感受性、外側の真実性など、様々な表現様式が存在しうることを述べ、自分自身が色々な段階において創作した彫刻作品を例えとし、彫刻空間の存在感および距離感の異同を論じる。現代社会環境が進化し、人との繋がりが密接になりながら、人間関係や社会構造が複雑になったので、それに伴い、彫刻空間の表現様式も変化していくのである。
 第3章は、「木彫の内発的動機づけ」を通じ、彫刻の意識的性質の重要性を述べる。時代や地域の違いによって彫刻に対する宗教の影響をはじめ、彫刻の完全性を素材や様式の違いで表現され、彫刻が精神世界の真実さを持つことを論じ、「天女散花」、「北京の姫」、「春」という提出作品をめぐり、作品の創作過程を説明する。
「むすび」では、木彫を造像していることは、自分自身または他人に対する心理上の認知の過程であることを意識し、人生の中では多様な可能性があることを理解し、人と人との間でつかず離れずの距離感を探索していることを認識した。このインスピレーションから生み出された木彫像は、私が現在この時点で最もリアルな気持ちであることを述べている。

彫刻
木彫の内面精神
―京劇をモチーフにした木彫の可能性―
張 龍