デザイン
可視不可視の境界線
本論文は、透明素材の持つ一つの魅力が可視不可視の境界線にあると考え、筆者が美術作家として今まで実践して来た表現活動の記録とその表現活動へ行き着くまでの思考、軌跡を示し、考察したものである。
筆者は今まで作品を発表する場としてギャラリーや百貨店、イベントなどといった比較的短期間の展示と、マンションや病院、企業のエントランスなどといった商業施設での長期に渡る常設展示とを経験してきた。その活動の中で、作品を発表する場所や環境によって、求められる要素の違いを経験し、自身で作った作品にはそれぞれに適正があることが明らかになった。求められる環境に適した素材を模索しながら、作品を作り続ける中、当初メインで使用していた素材の樹脂からガラスに変え制作をはじめるが、ガラスも素材として難しい側面を持ち合わせている。筆者は、表現者としてアートとデザイン、そして工芸という三つの視点を踏まえ自身の表現活動を見つめ直し、透明素材の持つ可能性を本論文、および博士審査展での作品を通じて示す。
第一章では、筆者が表現活動をする上での自分の立ち位置について記述し、今の活動に至るまでのルーツを紹介していく。
第二章では、筆者が制作の中で使用していた樹脂とガラスについて考察した。筆者は人の目を惹きつける立体作品の要素の一つとして、触覚に訴える作品であると考え、樹脂とガラスの特性について述べた。また、異素材同士を組み合わせた作品や透明素材の場合においての接着剤の使用の有無やその際の問題点についても明らかにした。
また、透明な素材を使用し作品を発表していたデザイナーの倉俣史朗と、同じく透明素材を使用し空間演出をしている吉岡徳仁の作品を手掛かりに、考察した。
第三章では、筆者が大学院より作り続けてきた作品を三つの技法から記録する。一つ目にキルンワークによる大型鋳造作品によるインスタレーション作品《dear deer》、ガラスと膠により構成した常設作品の《scale》、そして、樹脂からガラスへ素材を変え薄型鋳造を試みた《ephemeral》。二つ目にバーナーワークとキルンワークとの組み合わせで作り出した《cosmos》、見る角度により、作品の表情が変わる《profile》。そして、最後にコールドワークにより、平面での切子作品に挑んだ《dispersion》。各技法から各作品の軌跡を示し、それぞれの特性や可能性を示していく。
第四章では、第三章で記載した作品に基づき、透明素材を使用した新たな展開として博士作品《profile》、《profile2》そして《spiral》について紹介していく。
以上のように本論文は、筆者が美術作家として表現活動をしていく中で、何故、透明素材の魅力が可視不可視の境界線にあるのかを明示し、空間の中で、可視不可視の境界線を演出する独自の方法を示し、透明素材の新たな可能性を提案していく。