東京藝術大学 大学院美術研究科 博士審査展2019

デザイン
どくろ茶会
「どくろ茶会」とは博物館の〈負の象徴構造〉である
木下 史青

審査委員:藤崎 圭一郎 鞍田 崇 清水 泰博 橋本 和幸

「死の近さ ─茶の湯の美学と博物館が出会うとき」

─3.11から「行の茶会」へ そして「どくろ茶会」へ
 「復興と茶の湯×アートと髑髏」その関係性とは何であろうか。2011年10月に筆者が行った東京・谷中での「行の茶会」以来、髑髏とともに幾通りかの茶の湯を実践しながら、その意味を自己に問うた。2011年3月11日いわゆる3.11・東日本大震災の後、2018年までで10回前後の茶会ごとに相応しい茶会名が付され、開催された。ある茶会で用いた髑髏茶碗の意味を問われ、ある時は抵抗なく受け入れられ、また髑髏のもつイメージの先入観から拒否されることもありながら、それでもリクエストがあるたびに発展・洗練を経つつ、いつしか「どくろ茶会」の往復開催は、「こころの復興」のための場のデザインになるのではという仮説を立てた。
 福島県二本松や南相馬で、山形で、キエフで、チェルノブイリで、そしてふたたび東京での「どくろ茶会」は、正式な茶室での茶会もあれば、野原に近い場所で……茶の湯の目的は、茶を行う「場所」のもつ意味へ祈りを捧げるための自服点ての孤独な茶にある。また、大切な友を祝福し、同席した人々と一時をともにするための茶会には、一座を建立するための幾つかの約束事があるだろう。そのような茶会のもつ時間と空間とは何の意味を持つものなのか、本論は次の構成により、その問いに対する回答を明らかにしたい。
  第Ⅰ章「どくろ茶会と心の復興 孤独と創造 死を見つめる/かけがえのない生」では、3.11からの被災地における復興期が、日本の社会においてどのような構造であるか、筆者が行ってきた「どくろ茶会」を時系列に整理・考察しつつ、その茶会が茶の湯の価値観に取り込まれ、どのような意味を持ちうるか、その現代的意義を問う。
 次に 第Ⅱ章「三木成夫の考える骨 ─人の頭骨形茶碗を考えるために」では、脊椎動物の骨・頭骨が「負の象徴構造」であるという、かつて生物・解剖学者として東京藝大において教鞭をとった三木の述べるところの意味について検討する。また人は「髑髏」を通して人は「何を」見、どのような価値観・世界観を感得するのか、その仕組みを分析し、髑髏とは何かについてより深く考察する。さらに、三木とは対照的な養老・倉谷らの考え方との比較を試みたい。
 そして 第Ⅲ章「どくろ茶会 福島─谷中」では、「どくろ茶会」を成立させる構成要素「どくろ茶の湯 その道具と空間」について述べる。これまで注文制作したどくろ茶会の道具、すなわち「立礼卓」「髑髏茶碗」の制作コンセプトと設計・制作プロセスを述べる。それらのどくろ茶の湯のための基本道具と、空間:茶室と庭を博士審査展で披露し、茶会を行うことで死のイメージを生の世界へと転換する「どくろ茶会」を東京藝術大学大学美術館において行うことで世に問いたい。髑髏茶碗は、他の茶道具との取り合わせによって、茶の湯の堅苦しいイメージを払拭し、茶の湯の本来の楽しみへのきっかけを与えてくれるものであることを明らかにし、結びとしたい。其れすなわち茶の湯を実践することであり、どくろ茶会という「負の象徴構造」を証明することなのである。

デザイン
どくろ茶会
「どくろ茶会」とは博物館の〈負の象徴構造〉である
木下 史青