油画・壁画
ストリートのエキゾチカ
― 東京で考える ―
私の作品は、主に東京のストリートにまつわるものやことを中心とした、自身が強く憧れ、心惹かれる、人やキャラクター、カルチャー、その歴史などを題材に、絵画、彫刻、服飾品、グラフィックデザインの形で作品化したものである。
本論は、私を突き動かし制作に向かわせる憧れや興味の対象について、自身の解釈を明らかにし、それらが作品化される際に起きていること、その状況を「エキゾチカ」という概念を用いて考察していく、自作についての制作論である。
また、定義しづらいものやことも広く受け入れる「エキゾチカ」の懐の深さを肯定的に捉えながらも、自身や自作に関係する部分から出発し、より具体的に「エキゾチカ」について考察し、再定義することをもう一つの目的とする。
「ストリートのエキゾチカ」とは、自作や私自身のことを言い表したものであるとともに、私と作品で扱う題材、対象となるものの関係性、その関係性の上で作品が形作られていく過程や状況などを指したものである。
「エキゾチカ」
「エキゾチカ」と言う言葉は現在一般に、風変わりなものや異国情緒のあるもの、その雰囲気を指し示す際に使われることの多い言葉であるが、私がここで参照する「エキゾチカ」とは、特に音楽のジャンルにおける「エキゾチカ」や、そういった芸術作品が生まれる場や状況などを言い表した言葉、概念である。
「エキゾチカ」の代表的なアーティストである音楽家マーティン・デニー(Martin Denny , 1911 - 2005)は、現地の雰囲気に感銘を受けたハワイへと移り住み、「南国の楽園」を音楽で表現する。その「南国の楽園」がハワイアン・ミュージックとは違うものになってしまう、または意図的に違うもの、新しい表現にするという過程や生み出された作品には、私の作品や作品のおかれる状況、またその他の参照する様々な人やものやこととも共通点があると考えられる。
マーティン・デニーの作品は、空間に「南国の楽園」的なエッセンスをプラスするためのBGMとしても明確な用いられ方をしてきたが、想像や妄想、思い入れや思い込みが生み出す作品や表現は、聴き流せるものではない。
本論の構成
第1章では、自作で扱う題材、参照しているものやことから特に扱う頻度が高いものを具体的にあげ、それらのコンセプト的側面、また、フォロワーである自身の眼差しの先にある「大好きなもの」としての題材について、自身の解釈を明らかにし、それらが纏う意味やそれらを用いることで生じる意味、望む効果などを論じる。
第2章では、修士課程修了展出展作品を起点に、第1章で取り上げた題材などが作品化する際に起きていることを論じ、自作や、その制作過程、表現の段階から、「作品」や「美術」について考察する。
第3章では、グラフィックデザイナー、アーティストであるスケートシングや、音楽家ヤン富田の活動、言葉から、「エキゾチカ」的“場”が作られる環境としての東京や、影響関係にあるものやことの間に存在する時間や距離について考察する。
また、自身や自作に強く影響を与える「東京」や「ストリート」についてより具体的にその在り方を示す。