東京藝術大学 大学院美術研究科 博士審査展2019

油画・版画
「Incorpossível」 「身体内在可能性」
:版画による身体の変貌
サイキ・フェルナンド カルドゾ

審査委員:三井田 盛一郎 宇野 邦一 ミヒャエル・シュナイダー 保科 豊巳

“Incorpossível”-「身体内在可能性」:版画による身体の変貌は、版画に含まれる複製の可能性を実験する自由な領域としての人体を対象とする美術学分野における研究である。
 本研究における人間像は、時計の機構(身体−機械)と同じように、連結式の機能的な組織体とみなし、その仕組みを解体して新たな意味や異なった構成を生み出すものとする。その実践の目的は、身体の非組織的な内部まで立ち入ることを可能とするような亀裂や隙間を探求することにある。
 そのためには、本研究が版画、より具体的に水性木版画を調査方法として利用する。本研究における人間像の分解の中心的な要素は、一つのメディアに記されている情報をもう一つのメディアに転写できるマトリックスという媒体である。
 このプロセスのなかで、芸術的作品及びテキストに重点が置かれている。方法としては、結果の考察と材料との関係に深く関連している芸術実践を実験的に行う。本研究で、版画を作るというのは、作品を制作するだけではなく、むしろ習得と考察のプロセスであり、芸術的思考を育む方法論でもある。
 本論文は、まず研究が始まる以前の背景的な情報などを紹介する。
 次に、ドローイング、彫り、プリントという三つの段階から、本研究における版画の実践を述べる。その目的は、研究にわたって受けた芸術的な影響(ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、ラース・フォン・トリアー、ハンス・ベルメール、ハンス・ブレダー)、哲学的な影響(ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ、ジョルジュ・バタイユ)、そして文学的な影響(聖書、聖テレサ、ホメーロス、オウィディウス、アントナン・アルトー)を紹介することにある。それにあたって、版画や人体に関する考察と、結果に影響を与えてプロセスの過程で引き起こされた選択について述べる。
 その後、“Incorpossível”「身体内在可能性」という中心的な概念のもとで、四つのシリーズ、一つの芸術的行動、一つのインスタレーションという研究の成果を詳細に説明する。版画のシリーズは、“Aparições”、“Quimera I”、“Quimera II” 、“Jigsaw Puzzle”である。そして、衣服を身につけるという芸術的行動に“O Rei Nu”と、マトリックスを利用するインスタレーションに“1+1-n→n-1-1”というタイトルをつけた。
 最後に、身体の可能性をより深く理解するために、身体の自動制御化を崩壊する対策として、芸術実践を行う必要があることを主張する。そこで、本研究は、芸術表現として版画の活動範囲を、自動的な同一の複製を超えて拡張する可能性と、その画像の制作と区別方法を決定するものとして検討する。

油画・版画
「Incorpossível」 「身体内在可能性」
:版画による身体の変貌
サイキ・フェルナンド カルドゾ