東京藝術大学 大学院美術研究科 博士審査展2019

先端芸術表現
美学としてのインティマシー
Intimacy as Aesthetics
ヴィンセント・ライタス

審査委員:八谷 和彦 伊藤 俊治 小谷 元彦 長谷川 祐子

近代〜現代における美術史のなかで「インティマシー(親密さ、関係性)」が作品のテーマの一部となっていった。「アンティミスム」というのは絵画用語で室内、静物、日常風俗など親しみ深い (アンティーム) 題材を描く画風である。印象派にもみられるが、特に19世紀末〜20世紀初めに,ナビ派、P.ボナール、É.ビュイヤールの制作傾向をさすために用いられた。その後デュシャンは芸術作品を「アーティスト」、「芸術作品」、「鑑賞者」という3つの要素の人間同士の交渉の形式だと考え始めた 。90年代には、キュレーターであり美術批評家のニコラ・ブリオーは「関係性の美学」 という用語を作り出し、「芸術係数」の構造はもはや物質に限定されないと訴えた。彼は、芸術とは社会交換と同じ素材でできているとも述べた。彼の作り上げた新しいジャンルは現代美術の新しい傾向に対して反応するものであり、彼は、関係性を審美的次元で考える美学理論を描き出した。鑑賞者や関係性が作品の重要な要素になったことで、美術作品におけるインティマシー性が複雑になっていったが、本稿ではそれを構造化、分析し、制作に反映させるための手法を探る。

目的
本論文で私はブリオーが紹介し今も続けている、ある特定の関係による美学的な現象を分析する「関係性の美学」的アプローチを採用する。それはつまり、インティメイト(親密)な関係の美学である。私はインティマシーの審美的現象を探求し、美術作品から得られるインティマシーの特異性を定義し、分類する。
その結果によって美術作品におけるインティマシーの現象学的なモデルを作り上げることを本稿では目的としている。また、この研究は理論的側面を構築していくだけでなく、そうした理論の解釈を交えながら、詩的で五感に訴えかける芸術制作に反映し、概念的文脈を作品制作を通して発展させていくことも二次的に意図している。
方法
美術作品におけるインティマシーを分析するために、まずは人間同士における一般的なインティマシーの発生を定義する必要がある。そのために、心理学と現象学の文献を研究する。 その後、美術作品から得られるインティマシーと比較をし、美術作品から得られるインティマシーの特異性、固有性を定義し、また分類する。その分類と定義による具体的な現代美術作品の分析から、芸術作品に通底するインティマシーの現象学的なモデルを作り上げることを試みる。そのモデルをもとにして、自身でインティマシーがテーマになっている新作を作り、「作品から得られるインティマシー」の特異性を実証したい。

研究範囲
本研究はインティマシーを定義、または分類するために、心理学、現象学の文献を使っている。しかし、本研究の主な研究範囲はあくまでも美学とする。美学の分野の中で、本研究は1990年から2019年の間に作られたインスタレーション作品、パフォーマンス・アート、参加型芸術を中心に考証をおこなう。
研究の意義
本研究の結果で作品から得られるインティマシーの類型学的なフレームワーク とレキシコンができる。そのフレームワークとレキシコンは美学と批評の分野で作品から得られるインティマシー性についてディスカッション、分析、説明できるツールになることを目標とする。
本文
第―部

第1章  インティマシー性の定義
美術作品から得られるインティマシーをさぐる前に、まず人間同士におけるインティマシーを定義する。そのために、心理学と現象学の分野からの研究結果を援用する。
1992年北米アメリカにおける「The Phenomenology of Intimacy」(Register, L.M., Henley, T.B.)という現象学研究の実験において、インティマシーを感じる経験の根本的な要素は何であるのかを探る研究がなされた。その研究ではボランティア11人に対し、次の課題が出された。「本実験はインティマシー経験を研究する目的で行われる。インティマシーを感じた経験をできるかぎり細かく、はっきり説明してください」。研究者はボランティアが書いた結果を分析し、有意義なステートメントを抽出した。その後、そのステートメントを分析し、主題を削減することでインティマシーの経験の構造体を作った。
研究結果により、インティマシーの経験の根本的な要素は:非言語的コミュニケーション (Non verbal communication)、プレゼンス (Presence)、時間 (Time)、境界 (Boundary)、身体 (Body)、運命と驚き (Destiny and Surprise)、変形 (Transformation)で構成されるとした。
「The Psychology Of Intimacy」(Prager, K.J.,1995)という本において、様々なインティマシーに関する心理学的な研究がまとめられている。この本の目的は人間同士のインティマシーを心理学的のアプローチで定義したり分類したりすることである。この本の心理学の研究によると、インティマシーの主なパラメータは「自己開示」(self-disclosure)となっている。また、愛情(affection)、信頼(trust)、結束(cohesiveness)の程度によって、人間同士の関係性によるインティマシーが強くなるとされる。また、インティマシーという現象は3つのタイプに分類されると結論ずけられている:インティメイト体験(intimate experience)、インティメイト行動(intimate behavior)、インティメイト関係性(intimate relationship)。
上記のように人間同士における通常のインティマシーの基礎研究は現象学と心理学の分野でなされているが、その研究結果と美術作品におけるインティマシーの現れ方の違いを分析することにより、美術固有のインティマシー性が明らかになると考える。

第2章  作品から得られるインティマシーの特異性
人間同士におけるインティマシーと美術作品から得られるインティマシーの差分を探る。第1章に書いた人間同士におけるインティマシーと、美術作品から得られるインティマシーを比較することで、作品から得られるインティマシーの特異性を定義することを試みる。ここでは現代美術作品を分析することによって、いくつかの特異性を確認した。美術作品に固有な特異性は、筆者が類型として定義し命名した。

2−1:ベートソンによる遊び、精神分裂病、ダブルバインドについての理論
遊び(play)のコンテクストで、行動(そしてそれともなうメッセージ)はその行動が固有のひとつだけの意思表示ではないことを意味する。例えば遊び(play)のメタメッセージとは例えば攻撃的なしぐさをしたとしても直接の攻撃意図ではなく、「こんな風にして遊ぼう」
である。つまり、遊び(play)の行動のメタメッセージはこの行動の固有的のメッセージより高い抽象化のレベルに存在する。これは、脅し、メタファー、ユーモア、儀礼、ファンタジー、詩、フィクション、シミュレーション、改ざんなど同じ(play)カテゴリーに属するコミュニケーションモードにも当てはまる。ベートソン(1955)によると、人間はあるメッセージを(play)カテゴリーと(play)ではないカテゴリーの区別がつけるため、心理的枠組という概念を使用している。
心理的枠組はメタコミュニケーションのレベルに存在している。メッセージは明示的または暗黙的に心理的枠組を定義して、相手に心理的枠組の中に含んでいるメッセージが
理解できるよう指示を出す。心理的枠組の形は多くある、例えば非言語的(例:皮肉な表情)、口頭(例:抑揚)、視覚的(例:句読)または物理的(例:絵画の枠組み)である。メッセージの心理的枠組を読み取る、またはメッセージの心理的枠組を定義するのは「フレーミング」という。

ベートソンにより、精神分裂病患者は自分の中に、または自己と他者との間の
コミュニケーションモードを区別する能力が弱い。つまり、精神分裂病患者は自分のメッセージ、あたは他者のメッセージをフレーミングできず、そのままストレートに解釈してしまう。しかしベートソンによれば、誰しも多かれ少なかれ精神分裂病患者と同様な状態になる瞬間があると指摘している。

2−2:スキーマとフレーミング
スキーマは認知心理学者が使用している特別な種類の心理学的な現象である。Robert L. Solso(2003) はスキーマを次のように定義する。「スキーマは、知識を表現するためのメンタルフレームワークの一部である。この用語は特に人間が意味のある組織で相互に関連する概念の配列をどのように表現するか、説明するために使われている。スキーマは日常的な体験を構造化する、または理解するためのコンテクストを提供する。スキーマはアート、科学、文学、音楽、歴史の表現の方法にも当てはまる。」

個人の美術に関する知識と個人的な世界観は我々がギャラリーや美術館を訪れ、作品をみる時に発生する「アートスキーマ」に影響を与えられ、作品鑑賞にも影響を与える。
個人のスキーマを通して作品の印象は変わるが、同時に一般のアートスキーマを通して作品を一般化し、説明することも出来る。

この研究の目的のために、スキーマの使用と心理学的枠組の使用を結びつける。作品を通してインティマシーの体験は作品のアートスキーマの中にある複数なメッセージの結果である。その複数のメッセージ(あるいは要素)はインティマシーの体験を形成すると仮定する。
それらの要素は前述した心理学から引き出したインティマシーの特徴も含んでいる。例えばインティメイトな行動、理解の認識、ポジティブな感情が作品のアートスキーマの中にある複数メッセージ(あるいは要素)の一部にもなる。
それらのインティマシーの要素が少なくとも1つなければ、美術作品を通してインティマシーを体験することは不可能であると仮定する。

要素が美術作品のアートスキーマの一部であるという前提の上で、これらのインティメイト要素はフィクション、メタファー、ファンタジー、シミュレーション、遊び(play)、改ざん(falsification)というコミュニケーションモードの対象になることができる。一方で日常的な状況におけるインティメイトを構成する関係には誠実さ、透明性などの前提に基づいている。そのため、日常的な状況における真剣なインティメイト関係の場合、それらのコミュニケーションモードはインティメイト関係に負の効果(negative effect)を与える。
上記の論理から、それらのコミュニケーションモードが美術作品においては、どのようにインティマシーの要素に変形するかをインティマシーの美学として個別化する。個別化したものを定義すると、「フィクショナル自己開示」、「追体験なインティマシー」、「ロールプレイド関係」、「不協和的なインティマシー」、「代理的なインティマシー」、「公開的な排他性のパラドックス」である。それらのインティマシーの美学の特徴は次に通りである。

2−3:フィクショナル自己開示
人間同士のインティメイト関係における自己開示は通常はリアルな自己開示である。しかし美術作品おいてはフィクショナルな自己開示である場合もある。
2−4:追体験なインティマシー
追体験なインティマシー、芸術作品によってアーティストやフィクショナルの存在と共感しインティマシーが発生する体験である。
2−5:ロールプレイド関係
これらは、演劇化した関係である。 芸術的な文脈の中では、そうでなければ不自然な相互作用が起こるために、アーティストまたは参加者が関係を演技する。 アーティストと参加者がアートワークのフレーム設定に準拠するには、ロールプレイド関係が必要になることがある。
2−6:不協和的なインティマシー
不協和的なインティマシー、その1つが要素であるインティマシーの経験またはインティマシーのインタラクションであり、認知的不協和と同じような心理的緊張を生み出す。不協和的なインティマシーは、鑑賞者が芸術作品を再解釈する、および提示または期待されるものの背後にあるより深い(より抽象的な)意味を見つける動機付けをするための戦略としてアーティストによって使用される場合がある。この場合、鑑賞者は作品の1つまたは複数の要素の再解釈は、知覚される不協和に起因する心理的緊張を解決しようと試みる。仮説としては、不協和的なインティマシーから生じるこの心理的緊張状態は、メッセージのフレーミングの弱さを伴うため、(軽い)統合失調症的な状態を引き起こしていると予想する。この場合、このメッセージはアートワークの知覚を通じて受信されるメッセージである。

2−7:代理的なインティマシー
人間同士におけるインティマシーと違い、フィクションの存在、あるいは存在しないものであってもインティマシーが発生する。そいうようなインティマシーは「代理的なインティマシー」として定義した。

2−8:公開的な排他性のパラドックス
公開的な排他性のパラドックスは排他性のないインティマシーである。 観客がインティメイトな関係を確立したり、観客との親密感を呼び起こしたりするアートを公に展示するのは、公開的なインティマシーである。

第二部

第1章  インティマシーの変数
この研究では、インティマシーとその基本変数の形態を考察する。 この形態学は、ペーター・スローターダイクのインティマシーの現象学的モデル から大いにインスピレーションを受けている。 インティマシーは3つの変数に分けることができる。また、 この変数は、人間関係のインティマシー、および作品のインティマシーに適用される。
1−1:自己開示
この変数は、どのくらい自分自身を被験者に公開しているかを示す。 高い自己開示は高いインティマシーを意味し、低い開示は低いインティマシーを意味する。
1−2:距離感
インティマシーは、しばしば近さ[closeness]と同義である。 近さは、自分と対象との距離を指す。 距離感[proximity]が低いことは、インティマシーの度合いが高いことを意味する。 距離感が高いことは、インティマシーの度合いが低いことを意味する。
1−3:排他性
排他性の変数は、他の3つの変数の値を対象に、どの程度排他的であるかを示す。 高い排他性は高いインティマシーを意味し、低い排他性は低い親密性を意味する。

第2章 インティメイト・アートの役割
2−1:記録
私たちのインティメイトな社会的相互交流のバーチャルな記録(すなわちデジタル写真)と身体的記録を作成することは、主観的記憶への依存から私たちを解放するだけでなく、ある記録の場合には、他人がそれらの中にどのように含まれているか 、それらがどのように他のものの中に含まれているかを示す。 記録は私たちの共通記憶であり、私たちのインティマシーの証人である。 さらに、記録の外部性は、他のものが自分の中にどのように内包されているかの配列、反映、理解を可能にする。 芸術作品としてのインティメイトな記録は、過度の[ハイパー]主観的、自己尋問的、象徴的である。
2−2:ファシリテーター
ファシリテーターは、複数の個人間のインティマシーを促進するツールや環境である。芸術作品はインティメイトな審美的浸透の触媒として機能する。 また、芸術の素材が社会的交流から成立している場合は、最もこのカテゴリーに当てはまるだろう。 芸術作品の物質性とメディア性は、シンプルにインティマシーを促進する。
2−3:リフレクター
リフレクターは、芸術作品の社会的背景の中で、スタンスを反映したり、インティマシーに関する立場を採用したりする。 つまり、自尊心の鏡とそれが存在する場所と言えるだろう。リフレクターは感情を超えてインティマシーを社会・文化的に明示する存在である。

第三部
3−2:Breathing IN/EX-terior

作品説明
《Breathing IN/EX-terior》は、会場一階の構造全体を活かした大きな布によるインスタレーション作品である。この布の構造体は、展示空間に設置されている送風機によって、鑑賞者の動きとインタラクティブに揺れ動く。布のテクスチャやマテリアリティ、風や照明のプログラミングによって、本作は鑑賞者を包み込むような柔らかい体験、すなわち作家の追求する「インティマシー(親密性)」を生み出す。また、会場全体を構造化した本作品は、作家の呼吸音とも同期されている。こうした布、風、音、光のコンビネーションにより、鑑賞者は展示空間にありながら、作家の体内に潜り込んでしまったかのような感覚に陥ることとなる。

研究結果から使ったモデル
本作はファシリテーターの役割でもあり、リフレクターの役割がある。距離感が主な変数である。作品のインティメイト特徴は身体、非言語的なコミュニケーション、追体験なインティマシー、プレゼンス(presence)である。    

3−3:Dynamics of Mass Connectivity

作品説明
《Dynamics of Mass Connectivity》は、3面モニターのインタラクティブ・ インスタレーションである。1つのポールを中心として3面に別々のモニターがついて回転しており、国内外在住の作家と親しい人物がビデオ通話している様子が映し 出されている。鑑賞者が作品に近づくに従って、このモニターの回転速度は 上昇し、モニターに映し出されている人の顔は判別不可能になる。また、3 画面の多言語による声は重なり、ポリフォニーとなることで、それぞれが何を話 しているのかを聞き取ることができなくなる。本作では、情報テクノロジーに よって媒介されるコミュニケーションの過剰によって、親密な会話ですら逆説的 にノイズ化し不在化していく様相が示されている。

研究結果から使ったモデル
本作はリフレクターの役割でもあり、記録の役割がある。主な変数は自己開示、排他性、距離感である。特徴は不協和的なインティマシーであること。距離感が短くなると作品で感じる信頼性が徐々に恐怖に変化する。

この作品では、距離感は、アートオブジェクトと訪問者の間の相互作用における重要な変数である。ビデオ会話の両端の仲間の「近さ」を象徴している。鑑賞者が作品に近づくと、作品に通しての不協和的なインティマシーの体感が強くなる。最初ビデオ会話はフレンドリーやインティメイトだが徐々に不気味で混雑的なカオスの形と変わっていく。

この一連の出来事は、ソーシャルメディアが私たちの生活に与える影響で発生した不協和的なインティマシーのメタファーである。

3−4:Untitled(Swing)

作品説明
《Untitled (Swing) 》は、ブランコ型のインタラクティブ作品である。このブランコの座席部分は、剃刀の刃で覆われている。天井部分には蛍光灯がついており、鑑賞者が作品の前を通ると、この蛍光灯が点灯しこの剃刀の刃を照らし出す。そして蛍光灯の点灯と同時に、「モスキート」と呼ばれる高周波の不快音が空間に響く。これは主に若年層にのみ聞こえる不快音であり、国内でも若者を公園などの公共空間から排除するため夜間に使用されるケースがある。作家は東京での生活の中で実際にこのモスキートをしばしば体験してきたことから、開かれた空間であるはずの公共空間が逆説的に「敵対性」を生み出していくことに着目し、こうした状況を「敵対的なインティマシー Hostile Intimacy」と定義した。刃に覆われた子供用のブランコ、明滅する蛍光灯、高周波音といった「冷たい」要素によって構成される本インスタレーションは、「公共」と「私」の敵対的な関係を、しばしば「温かい」意味合いで肯定的に用いられる「インティマシー」という正反対の観点を通して見つめることで、私達をとりまく包摂と排除の間を揺れ動く複雑な境界の再考をうながす。

研究結果から使ったモデル
本作はリフレクターという役割がある。距離感は主な変数になる。特徴は不協和的なインティマシーである。距離感が短くなると信頼が転じて恐怖になる。

3−5:Breathing Paper

作品説明
《Breathing Paper》は、作家が日本に拠点を移してからスケッチブックに書き溜めている、メモ書き、スケッチ、テキスト、詩などのドローイングやコラージュ、日々の生活を写し取ったスナップといった作家の「私」の集積といえるオブジェを、洗濯物用ハンガーに吊るした作品である。この作品は風によりゆるやかに回転しつつ、中央に吊るされている電球の光によって、作家の影を投影する。キッチュで脆弱な印象を与えながらも、吊るされたドローイングには「私」と公共の関係を図式化しようとする理論的分析が含まれており、繰り返される国内の日々の生活を客観的に観察しようとする作家のプラクティスが、ハンガーのぎこちない回転の中に内包されている。そして作品の構造上、回転の動力源となる「風」を受けているのはまさにそうした脆いドローイング群であるため、風の身体感覚と日々の私生活の「インティメイト」な循環運動が、システマチックでありながらどこか有機的な構造体として提示される。

研究結果から使ったモデル
本作は記録という役割がある。主な変数は自己開示と排他性である。主な特徴は時間性と体験なインティマシーである。

結論

インティマシーの基本的な特徴は愛情(affection)、信頼(trust)、結束(cohesiveness)である。その他には非言語的行動(nonverbal behaviour)、物理的環境(physical setting)、気分(mood)もインティメイトな関係に影響を与える要素となる。さらに、自己開示、距離感と排他性はインティメイト体験に強い影響を与えるインティメイト相互交流の変数である。このインティマシーの基本的な特徴と要素は美術作品を通してインティメイト体験を作るのに使用できる。これらの要素が少なくとも1つはなければ、美術作品を通してインティメイト体験を作ることは不可能である。鑑賞者にインティメイト体験をさせる美術作品にはこれらの要素が少なくとも1つ含まれている。

要素が美術作品のアートスキーマの一部であるという前提の上で、これらのインティメイト要素はフィクション、メタファー、ファンタジー、シミュレーション、遊び(play)、改ざん(falsification)というコミュニケーションモードの対象になることができる。一方で日常的な状況におけるインティメイトを構成する関係には誠実さ、透明性などの前提に基づいている。そのため、日常的な状況における真剣なインティメイト関係の場合、それらのコミュニケーションモードはインティメイト関係に負の効果(negative effect)を与える。
上記の論理から、それらのコミュニケーションモードが美術作品においては、どのようにインティマシーの要素に変形するかをインティマシーの美学として個別化する。個別化したものを定義すると、「フィクショナル自己開示」、「追体験なインティマシー」、「ロールプレイド関係」、「不協和的なインティマシー」、「代理的なインティマシー」、「公開的な排他性のパラドックス」である。
それらのインティマシーの美学の特徴を分類するのは美学の分野における本研究の主な目的である。

特に日常的なインティメイト相互交流とインティメイト関係はそのままでアートのコンテクストに移し替える(transpose)美術作品の場合は、それらのインティマシーの美学の特徴が適用される。このような作品は主に鑑賞者およびアーティストが物理的な空間で相互交流するパフォーマンスアートやリレーショナルアートである。
そのようなシチュエーションの場合、心理学的のインティマシーのルールがまだ適用されるが、鑑賞者のアートスキーマがシチュエーションに影響を与える。そのため、インティマシーの美学の特徴が「自然的」に発生することが可能になる(例:ロールプレイドインティマシー、フィクショナル自己開示等)。20世紀後半に美学のインティマシーのdynamicsはパフォーマンスアートとリレーショナルアートの台頭の影響で、 (dynamics)意義深い変化(significant)が起こった。20世紀の後半までの表現美術とは対照的に、それらのアートフォームには一方向の表現だけではなくテーマをシミュレーションし、ベートソンの言う、(play)カテゴリーのコミュニケーションモードとインタラクションが作品の一部となったのがその理由だ。これにより、ロールプレイドインティマシー、代理的インティマシーと「ファシリテーター」というインティメイトアート類型が現れた。

インティマシーの要素と美術作品から得られるインティマシーの特異性は4つの作品を通して審美的な体験させるための基本単位(building blocks)になる。
本研究はそれらの作品の理論的基礎となる。一方でそれらの作品は本研究の物理的や感覚的な発現(manifestation)になる。それらの4つの作品は2019年4月4日〜5月12日「ヴィンセント・ライタス個展:呼吸する内/外 [英:Breathing IN/EX-terior]」(駒込倉庫 Komagome SOKO、東京)
で発表された。

本研究の結果になった4つの作品のタイトルは《Breathing IN/EX-terior》、《Dynamics of Mass Connectivity》、《Untitled (Swing)》、《Breathing Paper》である。個人的に一番重要な美学的なインティマシーの要素は不協和的なインティマシーである。それらの作品の中で《Dynamics of Mass Connectivity》は不協和的なインティマシーを主なインティマシーの要素とするため、作った作品の中で《Dynamics of Mass Connectivity》が一番重要な作品ともいえる。《Dynamics of Mass Connectivity》には不協和的なインティマシーが美学的な面だけではなく、SNSの使用を通して現れる不協和的なインティマシーも、複雑なアイデンティティから発生する不協和的なインティマシーも、参照している。

先端芸術表現
美学としてのインティマシー
Intimacy as Aesthetics
ヴィンセント・ライタス