『伊勢物語』は10世紀初頭から11世紀初頭にかけて形成された歌物語(物語文学)である。本文成立後早くに絵画化も行われていたと考えられている。
本研究は平安後期における物語文学の絵画化を、『伊勢物語』と伊勢物語絵に焦点を当て、鎌倉時代制作「梵字経刷白描伊勢物語絵巻」(白描本)を研究対象作品に据えて考察したものである。「白描本」は現存最古の伊勢物語絵で、図様の特徴から平安時代制作の伊勢物語絵(祖本)に依拠した作品であることが指摘されている。「白描本」の図様を手掛かりに祖本を想定復元し、彩色本の作品として視覚的に提示することが本研究の目的である。
想定復元を行ったのは、初段「春日の里」、四段「西の対」、九段「宇都山」、二十三段「筒井筒」、二十七段「水鏡」の五場面である。表装は巻子装とした。