研究科長挨拶

　東京藝術大学大学院美術研究科の博士学位の審査は、一般的な大学院とは相違しています。「論文」のみによる審査を行う領域に加え、「作品と論文」を併せて審査を行う領域が存在しているからです。これは研究者だけを対象とせず、美術家・デザイナー・建築家などの育成をミッションとして掲げる本学の特性を反映したものといえるでしょう。
　「美術分野における博士とはどのような存在であるべきか」という問いに対しては、これまでも長く議論が続いてきました。様々な考え方があるのですが、その一つに、独創性あふれる作品を制作すると同時に、そこに至る過程や背景にある思想あるいは論理的思考の内容を論文として記述し、その両者を一体として審査するという方法が提示されました。
　ただし、作品と論文の関係性は一様では無く、毎年のように新たな展開が生まれています。「博士審査展」は、この両者を一つの会場で発表し、その内容を広く社会に問うもので、このｗｅｂ上の図録はその一端を収録したものです。したがって、ここにアーカイブされた内容は、これから作家あるいは研究者としての活躍していく才能の最初の一歩を記録したものといえるでしょう。
　末筆になりましたが、今回博士学位の審査に望んだ者は、これまで多くの方々のご支援ご指導を受けてまいりました、その全ての皆様に深く感謝いたします。また今回の博士審査展開催にあたって、ご支援ご協賛をいただいた方々へも心より御礼を申し上げます。